
2025年3月に公開された映画「35年目のラブレター」。公開から3週間を過ぎ、多くの観客に感動と勇気を与えています。昭和から現代までの35年間の夫婦の物語を豪華キャスト人で演じられました。舞台は戦後まもなくの昭和から令和までの期間です。変わりゆく時代を要所で感じることだ出来ます。二人の馴れ初めからの数年間を演じられた西畑保(たもつ)役の重岡大毅さん、皎子(きょうこ)役の上白石萌音さん。それから長い年月経て定年を迎えてからの数十年間を笑福亭鶴瓶さん原田知世さんが演じられました。
映画のあらすじ
主人公の苦悩を描く
主人公の保は幼少期に山奥に住んでおり、3時間かけて通学していたが小学校2年生の頃にいじめにあって以降、学校に通わなくなっていた。やがて大人になった保は、自分の食い扶ちを探すために職を探すことになるのだが、字が読めない成人男性に対しての社会の目は厳しかった。戦後まもなくの昭和の日本で貧困やその他さまざまな理由で学校を通うことが出来ずに育った人はいたものの、日本人全体の識字率は極めて高いものであり、自分の名前すら読み書きのできない保を理解してはもらえなかった。ようやく手にした職を手にしても、仕事では困難の連続。周りに能力で劣ることで嫌がらせを受けることもある。
職を見つけても、うまくいかずに職を転々とする日々だった主人公に救いの手を差し伸べてくれたのが、のちに定年まで勤めあげる寿司屋の店主。保は寿司屋で一生懸命働き、のちにその店主の伝手で妻になる皎子と出会う。
「今日からあんたの手になる」支え続ける決意する妻
自分の人生から結婚という選択を捨てていた保。字の読み書きができないことが本人をそうしていた。ある日寿司屋の店主から見合いの話を聞き困惑する保だったが、断ろうにも断れず半ば強引に見合いをすることになる。そこで出会ったのが皎子である。保は後ろ向きだった恋愛に対する気持ちが一変し、二人は何度もデートを重ね結婚することになる。当初から問題視していた「字」の事については隠し通したままだった。知られればこの幸せが終わることを確認していたからだ。
結婚から半年の月日が経ち、隠し通すことができない出来事に直面する。本人直筆の署名が必要な回覧板にサインするように皎子から迫られる。保はこれまで通り代筆をお願いするのだが、皎子は応じてくれず今すぐに書くことを強要する。ついに隠し通すことが出来ないと思った保は、意を決して自分の名前を書こうと試みるが、途中で書くことを諦めた。何としても隠し通したかった秘密が明らかになり絶望し泣き崩れる保。もう一緒にいることはできないだろうと思い自分のことを嘘つきだと責める保に皎子は「今日からあんたの手になる。」と優しく声をかける。
感謝の気持ちを字で伝えたい。
保は皎子に支えてもらいながら定年を勤めあげ、たくさんの孫にも恵まれた。定年を直前にしたある日、夜間中学校という存在を目撃し、興味を持ち始める。事情があり義務教育課程をまともに修了できなかった人たちが集まり学びなおす場であった。保はずっと諦めていた字を学びなおしたいと思い入学を決意する。そして感謝の気持ちを込めたラブレターを送ることを妻に約束し、必死に勉強に励む。
印象的な数々の言葉
作中では印象的な数々のセリフがありました。中でも好きなセリフを一つ紹介します。
『辛いこともちょっとのことで幸せや。』
幸せの字を辛いと書き間違えた保に、皎子が『辛』の字に線を一本書き足して言ったセリフ。幸せと辛いだと正反対の意味ですが、『一』を書き足すと全く違う意味になるんですね。
努力という辛い経験の上に幸せがあるとも捉えられますし、
幸せと辛いは実は隣り合わせとも捉えられます。
どんな辛い出来事もすこし物の見方を変えるだけで印象がガラリと変わることがあります。辛い出来事に直面しても『今抱えている問題はもしかしたらちっぽけなものなのかもしれない』と思わせてくれる素敵な言葉ですね。前者の辛い努力についても、人生の目標に向かって突き進んでいる努力であれば、何も行動を起こさない人生より幸せかもしれませんね。
作品の感想
今年一年でトップ3に入る名作だと思いました。演じるキャスト人も素晴らしく、セリフのないシーンでも感情はひしひしと感じとれるシーンが何度もありました。保が回覧板に名前を書けずにうずくまるシーンはとても胸が絞めつけられましたね。当たり前のことが出来ないことに悩みながらも、くじけずに寿司屋で寿司を握り続けたその姿に主人公の強さが感じとれます。主人公の優しい人柄やユーモアがあって明るい性格、自然と応援したくなるような人物像がとてもよく表現されていました。ヒロインの田原知世さんも優しく寄り添う姿はとても良くて、役にぴったりです。人間いつからでも挑戦して良いと勇気をくれる素晴らしい映画でした。